LAST WEEK MARKET|26.8.3〜7

ドル円と日米の金利差

LAST WEEK MARKET

日米が28年ぶりの円買い協調介入/米7月雇用統計は予想外の2.3万人減/9月利上げ観測が後退/ドル円は一時156円台・日経平均は乱高下/S&P500は最高値、原油はイラン協議の期限待ち―

2026年8月3日〜7日のマーケットは、「介入」で始まり「雇用統計」で終わった一週間でした。週明け3日朝、片山財務相が米財務省と協調した円買い介入の実施を正式に公表。円買いの日米協調介入は、アジア通貨危機下の1998年6月以来、実に28年ぶりです。7月末に1ドル=162円台後半と約40年ぶりの円安水準を付けていたドル円は、一時155円22銭まで急伸しました。

そして週末7日、米7月雇用統計が市場を直撃します。非農業部門雇用者数は約4.1万人増の予想に反して2万3,000人の減少。過去2カ月分も計10万3,000人下方修正され、平均時給の伸びも前年比3.2%へ鈍化しました。金利先物市場が織り込む9月の利上げ確率は55%程度から40%程度へ低下し、米2年債利回りは4.1%台へ急低下。ドル円は一時156円68銭まで売られました。

株式と原油の反応は対照的でした。米国株は「利上げ観測の後退」を好感し、S&P500は週初と週末の二度、最高値を更新。一方の日経平均は、月曜に介入ショックで一時1,600円超下げ、金曜朝にも1,000円超下げる乱高下となりました(週間では反発)。原油は米イラン協議の進展観測で週初に急落し、WTIは一時75ドル台と約3週間ぶりの安値を付けています。

MSマーケット総研が注目する本質はこうです。これまで円安を支えてきたのは、「介入は時間稼ぎに過ぎない」という経験則と、「米金利は高止まりする」という前提の二本柱でした。今週、28年ぶりの協調介入が前者を、雇用統計が後者を、同時に揺さぶりました。相場は「円安がいつまで続くか」ではなく、「円安の前提そのものが残っているか」を問う局面に入っています。

FRB

EDGE LOGIC LAB

今週の米国株は、原油に始まり金利に終わりました。週明け4日、米イラン協議の再開観測で原油が急落すると、インフレ懸念の後退を好感してS&P500は前日比1.79%高の7,736ポイントと約2カ月ぶりに最高値を更新。半導体株指数(SOX)は6.6%高と急反発し、7月のリスク回避一色から景色が一変しました。

ただし一本調子ではありません。週半ばには原油の反発と中東情勢の不透明感を嫌気してNYダウが464ドル安と6営業日ぶりに反落。そして7日、雇用統計の予想外の雇用減を受けて「悪いニュースは金利低下だから買い」の反応が勝ち、ダウは151ドル高の5万4,036ドルで反発、S&P500は7,757ポイントと最高値を再び更新しました。

値動きを貫くのは、極めて単純な一本の線です。原油が下がればインフレ懸念が緩み、ウォーシュFRBの利上げ観測が後退し、株が買われる。原油が上がればその逆。今回の雇用統計は「労働市場はもはやインフレ圧力の主因ではない」という解釈を裏付け、FRBが利上げを急がずに済む余地を広げました。

問題は、この「悪材料=好材料」の賞味期限です。雇用者数のマイナスが「鈍化」の範囲で済むなら、金利低下を燃料とする金融相場の入り口。しかし減速が企業業績に及び始めれば、同じ弱い統計が「逆業績相場」の号砲に変わります。同じ数字でも、市場がどちらの物差しで測るかで、出口は正反対です。

来週の焦点は、次のインフレ・景気指標に対する反応関数です。「悪い数字で株が上がる」うちは金融相場の文法が生きている証拠。上がらなくなった時こそ、物差しが切り替わった合図だと考えています。

米国株

用語解説:金融相場と逆業績相場

株式相場の4局面論で使われる区分。景気が弱く金利が下がる局面で株が買われるのが「金融相場」、景気悪化が企業業績を通じて株を押し下げるのが「逆業績相場」です。同じ「弱い経済指標」でも、市場がどちらの局面として解釈するかで、株価の反応は真逆になります。

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週明け、片山財務相は、7月30日の政府・日銀による単独介入(推計6兆円超)に続き、31日に米財務省と協調して円買い介入を実施したと公表しました。報道によれば、ニューヨーク連銀が米財務省に代わってユーロ売り・円買いを執行。談話では、保有米国債を売却せずに担保としてドル資金を調達できるFIMAレポにも触れられ、かねて本欄が論じた「外貨準備の制約」への一つの解答も示された形です。

それでも本欄の見立ては変わりません。介入は、単体では時間稼ぎです。今週効いたのは介入そのものではなく、金曜の雇用統計で「米金利は高止まりする」という円安の根本前提が、ファンダメンタルズ側から揺らいだことでした。市場が織り込み直したのは利下げではなく、9月の利上げ確率が55%から40%へ下がった程度。それでドル円が1円以上動くのは、金利差の「水準」ではなく、積み上がったポジションが相場を動かした証拠です。

円を為替スワップ等で調達して高金利資産を買う円キャリー取引は、「金利差が大きく、相場が静かである」ことで初めて成立する、実質的なボラティリティの売りです。162円という約40年ぶりの円安水準まで積み上がった円売りポジションは、金利差の水準が変わらなくても、変動率の上昇とモメンタムの反転だけで損切りを迫られます。協調介入がボラティリティを起こし、雇用統計が方向を与えた逆回転は、こうして始まります。

来週の焦点は2つ。第一に、日米当局が「断続的な介入」の構えを崩さない中で、戻り局面の上値がどこまで重くなるか。第二に、次の米物価指標です。インフレが再加速すれば利上げ観測が復活し、ドルは反発します。この円高が「巻き戻しの一時」なのか「転換の始まり」なのかは、まだ確定していません。

ドル円

用語解説:円キャリー取引の逆回転

低金利の円を為替スワップ等で調達し、高金利通貨・資産で運用する取引の巻き戻しのこと。キャリーの収益源は金利差、リスクは変動率で、実質的には「静かな相場」を前提としたボラティリティの売りに近い性質を持ちます。ショック時には損切りが連鎖し、金利差が開いたままでも急激な円高が起こります。

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日本株

日経平均は月曜、協調介入公表による急速な円高を受けて607円安(一時1,658円安)と急落して始まりました。しかしその後は持ち直し、週末7日の終値は6万5,606円71銭。週間ではむしろ反発しています。ただし、7月に付けた7万2,000円台の高値からは依然として約9%低い水準にあり、調整局面そのものは続いています。

注目すべきは金曜の「中身」です。日経平均は朝方に1,000円超下げながら76円安まで戻し、同じ日にTOPIXは19ポイント高と上昇しました。下げの主役は円高影響というより、減益決算のソフトバンクグループや見通し未達のレーザーテックなど、AI・値がさ株の固有の悪材料です。ドル円157円は輸出企業の想定レート(157〜160円が中心とされます)の範囲内で、市場全体が業績悪化を織り込みにいったわけではありません。

だからこそ、次の買い場は「◯円まで下がったら」という値段ではなく、条件で定義することを勧めます。

  1. 介入・統計イベントを通過してドル円のボラティリティが沈静化する
  2. TOPIXが日経平均より底堅い状態(=中身の下支え)が続くこと
  3. 想定レート157〜160円の下限が守られ、業績前提が壊れないこと。

※金曜時点で②は点灯済み、①と③がこれからの点検項目です。

来週は、円高の「二段目」が来るかどうかの見極め週です。夜間先物は6万6,300円台(8日早朝時点)と週明けは堅調に始まる公算ですが、条件が崩れないまま値幅だけが出る下げは拾う場面、条件が崩れる下げは待つ場面。この線引きの具体的な水準と分割の目安は、LINE限定記事で扱います。

日本株

Point!買い場は「値段」ではなく「条件」

「◯円まで下がったら買う」は予言への依存です。ボラティリティの沈静化・TOPIX優位・業績前提の維持という条件の成立を待てば、時間は多少失っても、シナリオの誤りに賭けるリスクを避けられます。値段は、条件の後からついてきます。

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\ MS総研の視点!/

2年前と同じ組み合わせ、違うのは「方向」「日銀利上げ×米雇用ショック×円キャリー」が二度目に問うもの

今週の相場に、既視感を覚えた読者は少なくないはずです。日銀の利上げ局面で、米雇用統計が予想を大きく裏切り、積み上がった円キャリーが逆回転する 2024年8月、日経平均が歴史的急落を演じた時と同じ組み合わせです。しかも今回は、28年ぶりの日米協調介入という「官製の号砲」まで付いています。

ただし、決定的に違う点が一つあります。2024年のFRBは利下げへ向かう局面にあり、米金利の低下余地が大きく、金利差の縮小観測が一方向に走ったため、巻き戻しは深くなりました。今回のウォーシュFRBは利上げ局面にあり、市場の織り込みはまだ「9月利上げ確率の低下」、つまり利上げの鈍化に止まっています。金利差の土台は、まだ壊れていません。

だからこそ、分水嶺は明確です。織り込みが「鈍化」で止まるなら、今回の円高と株の動揺はポジション調整の範囲で収まる。しかし今後の指標で「据え置きの長期化」から「利下げ」までが視野に入るなら、2024年型の本格的な逆回転が始動します。見るべきは株価ではなく、米2年債利回り(足元4.1%台)と金利先物の織り込み利上げ観測の純度です。

6月に本欄は「円買い介入は一発限りの時間稼ぎ。金利差という根本原因が変わらない限り効果は一時的」と書きました。今週の値動きは、その命題の正しさを、むしろ裏側から証明しています。効いたのは介入単体ではありません。介入・ファンダメンタルズ・ポジションの三つが、初めて同じ方向を向いたことでした。

相場の主役は、業績でも地政学でもなく、ポジションの物理学に移っています。表面の円高・株の乱高下に驚くのではなく、その背後で「織り込み」がどこまで進んだかを測る。私たちはプロでもアマでもなく、ただ相場のロジックを最後まで追うストラテジストとして、この分水嶺を見続けます。

金利動向
世界の金利
米金利と世界

週明け10日朝、イラン協議の期限原油は「合意なら下、決裂なら上」ほど単純ではない

週明け10日午前8時(日本時間)、米国とイランの協議が一つの期限を迎えます。6月17日署名の覚書から数える60日の交渉期間は8月中旬に満了し、米国によるイラン産原油の購入容認も8月21日まで。期限が幾重にも重なる「8月中旬の崖」の入り口です。原油は先週、協議進展の観測で急落して始まり、WTIは一時75ドル台と約3週間ぶりの安値を付けた後、78ドル台で週を終えました。

本欄は「合意=急落、決裂=急騰」という二分法を採りません。価格の反応は「何がすでに織り込まれているか」で決まるからです。7月に2割超上昇した戦争プレミアムの過半は、今週すでに剥落しました。イランとオマーンはホルムズ海峡の安全な航行で合意に達したと報じられ、週末には米国が海上封鎖の解除へ動くとの報道も出ています。市場は、かなりの部分まで「合意」を先に織り込んでいるのです。

したがってシナリオはこうなります。合意なら、残るプレミアムの剥落で75ドル割れを試すものの、その先の下値は需給が決めます。6月下旬時点で海上に滞留していた原油は約6,800万バレル、ホルムズ海峡の全面再開は約8,000万バレルを市場に放出しうるとの試算もあり、供給圧力は軽くありません。決裂なら、プレミアムは再点火しますが、7月高値の90ドル台へ全戻しするには、実際の供給支障の再発が必要です。

見出しに反応するのではなく、実物需給を映す物差しを一本持つこと。それが期近と期先の価格差(限月間スプレッド)です。期近高のバックワーデーションは現物の逼迫を、その解消は緩みを映します。ヘッドラインで急騰してもスプレッドが締まらないなら、それは「プレミアムだけの上げ」であり、続きません。

そして原油は、今週の主題である金利に還流します。原油安が続けば、金曜に生まれた「利上げ観測の後退」は本物になり、円高圧力も残る。原油が再び噴けば、インフレ経由で利上げ観測が復活し、ドル円も巻き戻る。10日朝の結末は、原油だけの話ではありません。来週の相場全体の「金利の前提」を決める、最初の試金石です。

\ 今週のマーケット注目Point!/

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